モンゴル研究会
The Society of Mongolian Studies
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モン研ひろば
会報『ツェツェック ノーリン ドゴイラン ЦЭЦЭГ НУУРЫН ДУГУЙЛАН』№3
会報『ツェツェックノーリンドゴイラン』第3号では「原発」に関するミノハラジョー(ペンネーム)さんの文章をお届けします。 この文章は、『ミニー・ノタグ -我が故郷-』第2号に掲載されたものです(『ミニー・ノタグ -我が故郷-』については、ページ末の解説参照)。また、右のサイトにはモンゴル語版があります。http://golomt.org/2012/06/06/mglfuku/
それでも、モンゴル国はフクシマになりたいのか?!
ミノハラジョー
1.モンゴルに原発が建つ
モンゴル国に原発が建てられようとしている。しかも福島第一原発から世界中に放射能をまき散らし続けている未熟な日本の技術(東芝?三菱?)によるかも知れないのだ。 3・11をはさんだ去る3月中旬、モンゴル国のS.バトボルド首相が日本を公式訪問した。訪問前、首相はマスコミのインタビューで「日本と核エネルギー開発協力について協議する」と明言していた。また訪問中、モンゴル国でウランを採掘しているアレバ社(ドルノゴビ県でウランを採掘し、放射能と酸で汚染された汚染水を垂れ流している。また同社はニジェールにおけるウラン採掘で多くの地元住民を被爆させた)と協力関係にある三菱商事の小林社長とも面談している。にもかかわらず、訪問後の両政府の発表にはこの分野の協力については全くふれられていない。3・11以後の日本における脱原発、モンゴル国で広がる反原発の動きを警戒しての対応ではないかと勘ぐってしまう。 モンゴル政府の計画にしたがえば、2020年にはモンゴル国で最初の原発が稼働する予定で、2013年から具体的な動きが始まるのではないだろうか。原発一基の建設には3000~5000億円(=37億5000万~62億5000万米ドル)という大金が動く。一体誰のための原発なのだろうか。
2.モンゴルが核のゴミ捨て場に
2010年9月より日米モ3か国が使用済み核燃料廃棄物などの国際的な最終処分場を建設する計画が秘密裏に進められていると『毎日』が報じた(2011年5月9日付)。この記事はすぐに翻訳されてモンゴル国の日刊紙に掲載され、フェイスブックを中心とした反対運動が起こり現在まで広がりを見せている。これに対して推進側は、G.ザンダンシャタル外相、城所卓雄在モンゴル全権大使(当時)らがすぐに報道内容を否定するなどの対応に出た。また、科学アカデミーのB.チャドラーら「専門家」やO.チョローンバトら推進派議員による原発安全キャンペーンもマスコミで繰り広げられる。決定的だったのは、9月9日、Ts.エルベグドルジ大統領が「国家安全保障委員会の許可なしで核廃棄物について交渉することを禁ずる」という主旨の大統領令を発令、さらに同月22日、国連総会の席で「外国の核廃棄物はモンゴル国内には受け入れない」と世界に向けて宣言したことである。これらの動きで核廃棄物施設の問題の幕引きを図った。 ところが、これらのキャンペーンでは核廃棄物の問題のみを強調し、ウラン原料を輸出して、外国の原発から出た核廃棄物を引き取る「包括的燃料サービス(CFS)」には一切ふれず、問題をうまくすり替えた。CFSとは一体何だろう。例えば、モンゴル産ウランを使って日本で生産された核燃料を韓国の原発で使って出た核廃棄物は「モンゴル産核廃棄物」としてモンゴル国で引き受けるサービスのことである。 モンゴル政府関係者は「外国から核廃棄物を持ち込むことは法律で禁じられている」と繰り返しているが、真っ赤なウソである。これを禁じた法律は2009年の修正で骨抜きにされ、現行法では外国の核廃棄物をモンゴル国に持ち込むことは可能である。
3.原発をとりまくウソ
福島原発事故から1年余り過ぎ、原発周辺にはウソがあふれていることが、危機感の薄い日本人にもようやくわかってきた。モンゴル国の原発建設についても全く同じである。なぜなら、正しい情報が十分に伝わっていれば、自然と長く共生してきた遊牧民が原発建設に対して黙っているはずがないからである。情報が権力側によってたやすく操作されることは、かつて独裁体制にあったモンゴル国のモンゴル人にも、現在も独裁体制にある中国領内のモンゴル人にもすぐにわかることであろう。
(1)「原発は安全」
本当に安全なら、大きな電力を必要とする東京や大阪など大都市に建設すれば済む話である。モンゴルなら全人口の2分の1が集中するウランバートルに建てるのが最も経済的であろう。危険だからこそ日本では大都市での建設を法律で禁じ、過疎で貧困にあえぐ地方に助成金をばらまいて危険な原発と核廃棄物を押し付けてきた。同時に莫大な広告費でマスコミ・芸能人を使って「安全神話」を作り上げてきた。それを今度は、資金援助や「先端」技術をエサにモンゴル国に原発を建てるだけでなく、自国で処理できなくなった核のゴミを押し付けようとしているのだ。
原発の危険性については、チェルノブイリ(ウクライナ)の事故について多数報告されている。チェルノブイリから2000キロ以上離れた英国北西部の牧場の羊が26年経った今も出荷制限されていると最近報じられた。チェルノブイリ原発事故でもたらされたセシウム137が大地に染み込み牧草を介して今も容赦なく羊の体内に取り込まれているという。
放射能の危険性については、セミパランチンスク(カザフスタン)の核実験の凄まじい被害の報告がある。
ウランの採掘・濃縮・発電、あらゆる過程で排出される核廃棄物を無毒化する技術は今まで発明されていないし、将来も恐らくできないと言われている。これらの膨大な核のゴミは巨大な施設を造って10万年、100万年単位で地中深く埋めるしかない。原発は、私たちが必要以上の贅沢をするために、遠い未来の子孫にツケを回すシステムにほかならない。
(2)「原発は環境にやさしい」
原発には燃焼というプロセスがないから発電の過程ではCO2は出ない。ところがこの議論をする際には、ウランの採掘・転換・濃縮・運搬、原発の建設などの過程で大量のCO2が出ることには一切ふれない。さらに、ウランを核分裂させ電気を発生させる運転時、汚染された原子炉の解体や核廃棄物の未来永劫にわたる管理まで、膨大なエネルギーが必要である。最も重要なことは、一度事故を起こすと大気・水・土壌が長期にわたって放射能に汚染され、それによって肉・魚・野菜・果物などあらゆる食品が汚染されて、健康被害が発生する。福島原発の被災者の苦悩は想像を絶する。
(3)「原発は安い」
「たった1グラムのウラン235が出すエネルギーは、石炭なら3トン、石油なら2000リットル分に相当する」と推進側はくり返す。ところが、ウラン原料の0.7%しか存在しない核分裂性ウラン235を集めるためには膨大なエネルギーをつかって濃縮しなければならない。また、原発の建設には大きなコストがかかる。さらに、原発周辺にばらまく交付金、放射性物質の廃棄、原子炉の廃炉、使用済み核燃料の再処理、原発に併設される揚水発電所などの費用も加わる。事故を起こせば、さらに復旧のため費用や賠償金が加わる。そして奇妙なことに、これら莫大な費用が原発の発電コストを計算する時には全く盛り込まれていないのだ。
4.まず事実を知ろう
さて、原発をとりまく現実は上のような具合である。モンゴル国では情報がほとんど国民に届かない状況で、CFS構想や原発の建設計画が着々と進められている。モンゴル国を核の脅威から守るため、何よりもまず正しい情報にアクセスして事実を知ることが大切であろう。国内外のメディアで報道されたニュースからモンゴル国の核エネルギー開発に関する重要な情報を提供し続けているgolomt.orgにアクセスしてみてはどうだろうか。日本語で情報を提供しているサイトbayartai.comも開設されている。モンゴル国が現在どんな危機的状況に置かれているのか、私たちが知らないところで実際に何が起こっているのか、それをできるだけ多くのモンゴル人、そしてモンゴルに関心をもつ日本人に伝える必要があるだろう。フェイスブックにはAnti Nuclear Movement Mongoliaというグループがあり、モンゴル国内だけでなく世界中で核の脅威を訴える写真展やデモ・集会など地道な活動を続けている。原発の脅威をできるだけたくさんの人に知ってもらい、原発とCFSを拒否しよう!!
参考文献・ウェブサイト
会川晴之『毎日新聞』2011年5月9日、2011年12月13日、2012年4月8日付
Ч.Мөнхбаяр 2012 “Цөмийн аюулын эсрэг тэмцэгч Амарлин: Цөмийн аюулыг арилгасан гэдэг нь Ц.Элбэгдоржийн хошгируулдаг шоу”, sonin.mn
今岡良子2012「モンゴルの核廃棄物処分場問題に思う」『日本の科学者』Vol.47 No.1
小出裕章2011『原発はいらない』幻冬舎(ルネッサンス新書)
芝山豊2011「モンゴルに迫る核の危機 CFS構想へNoを!」『JP通信』VOL.171
http://sekaitabi.com/humanerror-fryingdutchman.html(「ヒューマン・エラー」)
http://www.youtube.com/watch?v=q_rY6y24NAU&feature=share(「ずっとウソだった」)
http://www.youtube.com/watch?v=h3A34jA_9oQ&feature=relmfu(たね蒔きジャーナル)
http://www.youtube.com/watch?v=VNYfVlrkWPc(東京大学教授大橋弘忠)
http://www.youtube.com/watch?v=PuwFrNEgDTg(福島医科大学副学長山下俊一)
中国領内の核関連施設 内モンゴルには原発そのものはないが、その周辺の省で多くのモンゴル人が暮らすリョーニン(遼寧省)・徐大堡、ギリン(吉林省)・靖宇、ガンスー(甘粛省)・白銀には稼働している。また、ガンスーには高レベル廃棄物の最終処理施設の建設が計画中である。さらに、アラシャー・アイマグ(内モンゴル阿拉善盟)やロプノール(新疆ウイグル自治区バヤンゴル・モンゴル自治州)における核実験は広く知られている。
『ミニー・ノタグ -我が故郷-』について (編集者の解説より):「本誌は2009年に創刊されました。モンゴル語と日本語のバイリンガルで記事を載せ、モンゴル人と日本人に中国領内のモンゴルの歴史や現状などを伝えて問題を共有し、ネットワークを広げることを目指しています。創刊されてすぐ、当時編集長だったモンゴル人に中国当局から圧力がかかったため、休刊せざるを得なくなりました。・・・いろいろな情勢を考えて、このたび復刊することになりました」(取扱い書店 洛風書房 ℡075-241-3849)
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